2021.07.29 17:13輪渦と知れど①〈朱築〉家族の命日だった。あの日、俺の心は止まった。考えることが、難しくなった。そのあと、あの女に心を殺された。思い出すことさえ難しい昔のこと。あの女の、顔も、声も、思い出そうとすると、意識が遠くなる。他のことに意識がいく。本能的に、拒絶しているんだと思う。色々な人が、助けてくれた、と思う。ぼんやりと思い出せるのは、箱庭に来て、鳥かごという療養施設で過ごしたこと。靂(レキ)が、ずっとそばにいてくれて、一緒に箱庭で働こうと言ってくれたこと。葬(ソウ)が、いつも優しく見守ってくれたこと。長が、いつも心配してくれたこと。ここにきて、10年経った。高校を卒業できたことも、火の組で働けることも、国に守られて呪術をした人間を殺処分できる権利をもらえたことも、全部、自分の意...